大判例

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京都簡易裁判所 昭和27年(ハ)10号 判決

原告 高谷昭治

被告 水野元女

一、主  文

被告は原告に対し金一万三千六百五十円及昭和二十七年十月一日以降被告が京都市東山区山科日の岡堤谷町七十五番の二宅地二百十坪の上に所有する建物を収去し、該土地を明渡すまで一ケ月千五十円の割合の金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金四千円の担保を供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

原告は主文同旨の判決とこれに対する担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として主文掲記の宅地二百十坪は原告の所有で原告はこれを訴外高橋徳夫に対し建物所有の目的をもつて賃貸し、同訴外者は該宅地に家屋を建築し居住していたところ昭和二十六年四月一日当裁判所において地代を一ケ月四百九十五円と定め、賃料の支払を三回怠るときは賃貸借は当然に解除せられる旨の調停が成立した。然るに右訴外者は一回も地代の支払をしなかつたので右賃貸借は昭和二十六年六月三十日解除せられ、同訴外者は該家屋を収去しその敷地を明渡さねばならぬこととなつた。ところが被告はその後昭和二十六年八月二十二日競売手続により右家屋を競落しその所有権を取得したが叙上のような次第で被告は該宅地を使用する何等の権限を有しないから右家屋を収去し、その敷地を明渡すべきに拘らず該家屋を他人に賃貸し、現に三世帯の人々が居住使用しているような有様で家屋の収去を求むることははなはだ困難であり、かつ被告は義務履行の誠意がないので原告は被告の義務不履行により現に受くる損害は勿論将来受けることのあるべき損害をも請求できるわけである。

そして右宅地の地代は前記の通り公定価格は一ケ月四百九十五円である。

のみならず被告が義務を履行し明渡をしたなれば原告は今後新築すべき家屋のため該土地を賃貸して地代を取得することができるはずである。そしてこの場合においては前記公定価格にかかわらず地代については任意に定めることができそして本件土地の地代は附近の土地の地代と比較して一ケ月千五十円(一坪につき五円の割合)で賃貸できるから原告は被告の不法行為によつてこの地代に相当する損害を蒙るわけである。よつて被告が右家屋を所有することになつた以後である昭和二十六年九月一日から昭和二十七年九月三十日までの十三ケ月間の損害金一万三千六百五十円及昭和二十七年十月一日以降右土地明渡に至るまで一ケ月千五十円の割合の損害金の支払を求めると述べた。<立証省略>

被告は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張の土地が原告の所有であること、該地上に訴外高橋徳夫が家屋を所有していたこと、被告が昭和二十六年六月二十日競落により右家屋の所有権を取得したこと、並に右宅地の地代の公定価格が一ケ月四百九十五円(一坪につき一ケ月二円三十六銭)であつたことはこれを認める。その余の原告の主張事実は争う。

地代について公定価格の定められたときはその後においてその基本たる地上権又は賃貸借が消滅し或は借地人または所有者に変動があつても地代を定めるについては既になした公定価格の制限を受けることは地代家賃統制令の解釈上明である。地代家賃統制令第二十三条第二項第二号の規定は、昭和二十五年七月十一日以後に現実に新築に着手した建物の敷地の地代を定める場合に適用せられ、本件のような場合には適用せらるべきものではない、なお本件の如く土地の明渡を求めることなくして土地の明渡に至るまで損害金の支払を求めるのはその請求が不特定で無制限であるから訴訟法上許されないものといわねばならぬから既に生じたる損害の請求は格別将来生ずることあるべき損害の請求をなすは失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

本件土地が原告の所有であること該地上に被告が建物を所有することは被告の認めるところであり、そして被告が該地上において建物を所有しこれを敷地として使用する権限を有するについて被告は主張し立証しないから、被告は何等の権限なく不法に原告の土地において建物を所有するものというべきでこれに因つて生ずべき総ての損害を賠償する責任を有することはいうまでもないことである。そしてその損害は原告がその土地を利用して得べき利益を基準とし通常地代を基礎として金銭的賠償を求むるの外なく従つて原告が地代相当の損害金を求めることは正当である。

そこで次に問題となる地代の額である本件土地について従来建物所有の目的で使用する場合の地代が所謂公定価格において一ケ月四百九十五円であつたことは当事者間に争のないところであるが、本件において地代がこの公定価格に拘束せられるや否やは原被告意見を異にするところである。思うに地代家賃統制令第二十三条第二項第二号は昭和二十五年七月十一日以後建物を新築する場合敷地の地代を定むるについては統制を受けない旨を規定したもので、ただこの場合は建物を新築する場合に限り然らずして右期日前に存在した建物をそのまま目的とする場合においては新しく地上権を設定しまたは新しく賃貸借を締結する場合においても従来存在した公定価格の拘束を受くるものと解すべきではあるが、原告は被告が被告所有の建物を収去して原告所有の敷地を明渡すときは通常直に自ら使用するかまたは新築する建物のため賃貸し或は地上権を設定して地代を取得することのできることは明であるから、原告は従来の公定価格に拘束せられることなくその得べき地代相当の損害金を請求できるものといわねばならぬ。そして原告は本件土地は比隣の土地に比較して一ケ月一坪につき金五円全坪二百十坪につき千五十円で賃貸できると主張し、証人高谷八重子の証言及同証言により真正に成立したものと認めることのできる甲第一乃至第三号証によれば右事実を一応認めることができる。被告は土地の明渡の請求をなさずして明渡に至るまでの地代相当の損害金を請求するは不特定無制限の請求をするもので訴訟法上許されないと抗争するも明渡を請求するか或は明渡を請求せずして損害の賠償をもつて満足するや否やは原告の任意に選択し得るところであり、必ずしも明渡の請求を先にすべしとの理由はなくまた損害金の範囲は被告が土地を明渡すまでと制限されそして明渡の時期はすでに到来しているのであるから請求が無制限であるとも不特定であるともいうことはできない。もつとも明渡をするや否やは被告の意思にかかり被告が明渡を遷延するに従いこれに対応して損害も増加するが故に明渡あるまではその額を確定することはできないが、被告は何時でも明渡の意思を決定することができることであり明渡と同時にその額は確定せられ、制限せられること明であるから被告のこの抗弁は採用できない。

そして本件請求は叙上の如く一部は将来の給付を求めるにあること明なるも本件弁論の全趣旨に鑑み予めその請求をなす必要のあることが認めらるるから被告が建物を取得した後である昭和二十六年九月一日から建物を収去してその敷地を明渡すまで一ケ月千五十円の割合の損害金を請求する本訴請求は理由があるから、爾余の争点の判断をなすまでもなくこれを認容すべきものとし民事訴訟法第八十九条、第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 西村悦蔵)

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